レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」は、その美術的価値だけでなく、数多くの謎や象徴が隠されているとされ、長年にわたって学者や歴史愛好家の興味を引いてきました。この作品はイタリア・ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院にあり、15世紀末に制作されました。以下に、この名作に隠された謎や議論について解説します。
1. イエスとユダの位置
「最後の晩餐」では、イエス・キリストと彼の十二使徒が食卓を囲んでいます。特に注目されるのは、イエスの隣に裏切り者ユダが座っていることです。一般に、ユダは群衆とは距離を置かれたり、影で描かれることが多いですが、ここでは明確にその存在が示されています。ダ・ヴィンチはユダを視覚的に孤立させず、他の使徒と共に配することで、裏切りのショックやその意図を強調していると言われます。
2. 数字の象徴
絵の中には多くの数字の象徴が存在すると言われます。たとえば、イエスと使徒たちは三つづつのグループに分けられており、これは三位一体を象徴していると考えられます。また、4つの垂直線(窓や壁の配置)や、使徒たちの背後にある3つの窓など、数字「3」と「4」の組み合わせを通じて、ダ・ヴィンチがキリスト教の象徴を織り込んでいた可能性があります。
3. マグダラのマリアの存在?
一部の研究者は、イエスの右側に座っている人物が実は使徒ヨハネではなくマグダラのマリアであると主張しています。この説は、ダン・ブラウンの小説『ダ・ヴィンチ・コード』によって有名になりました。ヨハネ(またはマリア)の女性的な風貌や、イエスとの親密さがその証拠とされていますが、これはあくまで推測の域を出ません。
4. 隠された音楽
ある研究者によれば、「最後の晩餐」には隠された楽譜が含まれていると言います。食卓上のパンや手の位置が音符を形成し、ある特定の旋律を示しているとされています。この「音楽」の解釈もまた、今も議論の対象となっています。
5. 色彩と材質
ダ・ヴィンチは実験的な技法を用いて、この作品を描きました。しかし、そのために保存状態が悪化し、時間と共に色あせが進みました。作品に使用された色彩も様々な解釈がされており、特に赤と青の対比はキリストの神性と人性を表していると言われます。
6. その他の謎
- 隠された自画像
ユダの右隣に座る使徒トマスの顔が、実はダ・ヴィンチ自身の自画像ではないかという説があります。
- 天体の配置
使徒たちの配置が、当時の既知の惑星や星座の位置を表しているという説があります。これは、ダ・ヴィンチの天文学への深い関心を反映しているとされています。
- 13番目のパン
テーブルの上に置かれたパンの数が13個あるという説があります。これはキリストと12使徒の数を表しているとされていますが、同時に最後の晩餐の参加者が13人であることの不吉さも示唆しています。
- こぼれた塩
ユダの肘の近くに、こぼれた塩が描かれているという解釈があります。塩をこぼすことは不運の象徴とされ、ユダの裏切りを暗示していると考えられています。
- 隠された月形の刃物
ペテロの後ろに隠された月形の刃物があるという説があります。これは、ペテロがイエスを守ろうとして大祭司の耳を切り落とした出来事を暗示しているとされています。
結論
「最後の晩餐」は、ダ・ヴィンチの技術と想像力の結晶であり、視覚的な美しさだけでなく、深層にさまざまなメッセージを込めています。これらの謎は、その作品が時代を超えて私たちを惹きつける要因であり、解釈を巡る議論は尽きることがありません。ダ・ヴィンチの意図が何であったにせよ、この絵画は依然として芸術と宗教の交錯点であり続けるでしょう。